老朽化した賃貸物件から退去してほしい!の難しさ
建物の老朽がが進んで来ると、修繕費もかさみ、大きな地震などが来れば倒壊などの危険性も大きい…。
「退去してもらい、売却なり、新しく物件を建て直すなりしたい!」という大家さんは多数いらっしゃるのですが、
この立ち退き、明け渡し、というのがなかなか難しいのが実情です。
どんなに古くても「住みたい」意思は強い
「賃貸住宅から退去してもらう」ことは簡単なことではありません。
一般賃貸借契約において退去して貰いたい時には、
・退去期日の6ヶ月~1年前までに通知をする
・立ち退いてもらうための「正当事由」を必要とする
ということが基本になります。
この「正当事由」が非常に難しく、
「建物が古くて危険なので取り壊す」こと単体で認められたという判例はほぼなく、立ち退き料の支払いを必要とする結果になっています。
築90年の、賃料2~3万円の住宅に、200万ほどの立ち退き料がかかる判決になったケースも存在します。
▶建物老朽化(築後95年)を事由とした建物明渡請求が、原判決の立退料を増額した上で、控訴審でも認められた事例 |不動産適正取引推進機構
最近も、「古い賃貸住宅の立ち退き」について大阪地裁で出された判決が、新聞に取り上げられました。
簡単にご説明しますと、
・築80年を超える木造長屋を、古くなり修繕の負担も大きく解体したいため、唯一の入居者である80歳を超える女性に立ち退きを求めた。
・所有者が持つ近隣の家賃6万3千円のアパートを、現在の長屋と同じ3万6千円で貸し出すなどの提案もしたが、拒否されたため裁判となった。
・「立ち退き料による合意」の先例があるため裁判所も和解を勧めたが、良い条件を出されたとしても入居者はこのまま居住し続けたい意思を表明。
・入居者は長年居住して思い入れもあり、高齢者が慣れた環境を離れる負担も大きい。所有者の生計がひっ迫している状況でもないことから、所有者の請求が棄却された。
というような内容です。
古い賃貸物件を所有しているオーナーさんたちにとってはかなりのショックを受ける内容かもしれませんね。
本件の所有者も、不服として控訴しているようなので今後どうなるかわかりませんが、
築80年にもなる木造住宅であっても、退去の正当事由はなかなか認められない、という事例となります。
明け渡しの正当事由は、基本的には入居者と所有者のどちらが物件を必要としているのかを比べることになります。
上記のケースでは、判例の詳細が調べきれていないので何とも言えないのですが、
建物がまだ住めないほど悪い状態なわけではないことや、所有者が建物を維持することで生活ができなくなるような状態ではないため、
「高齢の入居者が長年親しんだ場所を離れる」負担に比べると理由として弱い、と判断されたということでしょう。
建物がもっとボロボロの状態であったり、入居者がもっと若かったり、所有者の事情が違った場合は、また違った判決になったかもしれません。
賃貸オーナーも「貸し続ける覚悟」が必要なのかもしれません…
裁判事例の紹介などしてきましたが、多くの建物明渡し交渉は、裁判になる前に話し合いなどで決着がつくか、
あるいは、オーナー側が諦めて貸し続ける選択をすることも多いです。
退去してもらえないにせよ、もらえるにせよ、
実際に明け渡してもらうまでは「貸主」と「借主」であり、適切な賃貸管理を行い、家賃の授受を行い、お互いの信頼を大事にしなければならない関係です。
まずはいきなり明渡し通知を送るようなことはせず、入居者さんと対話を行い、信頼関係を維持しながらゆっくりと話を進めていくのが良いかと思います。
そして、これから続くであろう高齢化社会では、賃貸住宅を「終の棲家にしたい」という高齢者の方も増えていくことが考えられます。
もちろん「経営」として出来ることには限りがありますが、「住の提供」という公の福祉にも関わってくるのが賃貸住宅経営というものです。
腹をくくって古い建物の賃貸を続ける覚悟が、賃貸オーナーに必要とされているのかもしれません…。
こちらもご参照ください
▶「賃貸している家を売りたい!」…けど、そう簡単ではありません。
▶リスク高まる築30年以上のアパート、壊して売りたいけれど…立ちはだかる壁
▶「家を貸し出そう」というときに考えたい「いつまで貸すか」について
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